「Code.orgがいいのか、Scratchがいいのか」——子どものプログラミング学習を調べ始めた保護者が、必ずと言っていいほどぶつかる疑問です。結論から言うと、Code.orgは「導いてくれる教科書」、Scratchは「何もない白紙のアトリエ」です。教科書は次に何をすればいいか教えてくれますが、自分の世界は作れません。アトリエは何でも作れますが、何を作るかは自分で決めなくてはいけません。だからこそ、多くの子にはCode.orgで「できた」を積み重ねてから、Scratchで「作りたい」を形にする順番が向いています。この記事では、その理由を7つの項目で具体的に比較していきます。
Code.orgとScratch、そもそも何が違うのか
Code.orgは米国の非営利団体が運営する無料のプログラミング教育プラットフォームです。2026年時点で「CodeAI」へブランド名を変更し、公式サイトでも「Code.org has become CodeAI」と明記されています。ドメインはこれまで通りcode.orgのままで、無料カリキュラムの提供も続いています。詳しい経緯や教材構成は、こちらのハブ記事「Code.orgとは?無料で学べるプログラミング学習プラットフォーム」で整理していますので、まず全体像をつかみたい方はそちらをご覧ください。
一方のScratchは、あらかじめ用意されたコースをこなす場所ではなく、ブロックを自由に組み合わせてゲームやアニメーションを一から作る「制作ツール」です。指示に従って進めるCode.orgとは、そもそも設計思想が違います。Scratchの基本的な特徴は「Scratch(スクラッチ)とは?子どものプログラミング入門に最適な理由」で詳しく解説していますので、この記事ではScratch単体の説明は最小限にとどめ、Code.orgとの比較に絞ってお伝えします。
Code.org vs Scratch 7項目比較表
元エンジニアとして中身を見てきた立場と、月謝や時間を管理する保護者の立場、両方から比較軸を作りました。まずは表で全体を俯瞰してください。
| 比較項目 | Code.org(CodeAI) | Scratch |
|---|---|---|
| ①学び方の型 | 課題型(ステップに沿って進む) | 自由制作型(白紙から作る) |
| ②最初の1時間の体験 | 達成感を得やすい | 戸惑いやすいが自由度は高い |
| ③日本語対応 | 教材は多言語対応。ただしサイト本体は一部英語表記あり | インターフェースを日本語に切り替え可能 |
| ④到達できる範囲 | 高校生向けAI教材まで段階的なコースがある | 本人のアイデア次第で上限がほぼない |
| ⑤作品を人に見せられるか | コース修了・達成が中心。作品共有は一部教材のみ | コミュニティでの作品公開・共有が前提 |
| ⑥親の負担 | 比較的少ない(自習で進められる) | やや多い(テーマ探しや相談役が必要) |
| ⑦飽きたときに起きること | 別のコース・活動に切り替えやすい | アイデアが尽きると手が止まりやすい |
①学び方の型:課題型 vs 自由制作型
Code.orgの教材は、基本的に「お題があって、それをクリアしていく」形式です。パズルを解く感覚でブロックを並べ、正解に近づくと成功アニメーションが流れます。何をすればいいか分からず固まってしまう子でも、次の一手が画面に示されているので迷いにくいのが特徴です。
対してScratchには「お題」がありません。ステージに何も置かれていない状態から、キャラクターを選び、動きを考え、音を鳴らすところまで、すべて本人が決めます。自由度が高い分、何を作るか自体を考える力が必要になります。どちらが優れているという話ではなく、「決められたことをやり切る力」を育てたいのか「ゼロから作る力」を育てたいのかで、向いているツールが変わってきます。
②最初の1時間の体験:達成感か、戸惑いか
Code.orgには無料のアクティビティが100以上用意されており、代表的なものだけでも「Mix & Move with AI」(8〜13歳向け・体を動かしながらAIのパターン認識を学ぶ)、「AI for Oceans」(7〜11歳向け・海洋ごみの判別で機械学習モデルを訓練する)、「Music Lab: Jam Session」(8〜14歳向け・コードで音楽を作る)などがあります。特にマインクラフトを使った教材は人気が高く、Microsoftと共同制作された「Minecraft: Voyage Aquatic」などの定番シリーズに加え、AIヘルパーと一緒に最初の夜を生き延びる「Minecraft Hour of AI: The First Night」といった新しい教材も登場しています。マイクラ教材については「マインクラフトでプログラミングを学ぶ方法」で詳しく紹介しています。好きな題材から入れるぶん、最初の1時間で「できた」という手応えを得やすい設計です。
Scratchの最初の1時間は、これとは対照的です。チュートリアルをなぞることはできても、その先に何を作るかは自分で決めなければなりません。「作りたいものがすでにある子」にとっては最高に楽しい時間になりますが、「何をすればいいか分からない子」にとっては、最初の壁になりやすいのが正直なところです。
③日本語対応:教材は多言語、サイトは一部英語
Code.orgの教材(チュートリアル本体)は多言語対応をうたっており、公式も「available in many languages」としています。ただし2026年8月時点で確認したところ、Hour of Codeの後継にあたる「Hour of AI」のメインサイトは英語表記に差し替わっており、hourofcode.com/jpを含むサイト本体の案内文や新しいAI系ページは英語のことがあります。教材内の表示は日本語にできるものが多いものの、サイトの案内は英語という状態が混在している、というのが正確なところです。完全に日本語だけで完結する、と断定はできません。
Scratchはインターフェースの言語をメニューから日本語に切り替えられるため、操作画面については日本語で完結しやすいツールです。ブロックの名称やメニューも日本語表示にできるので、読みの練習中の低学年でも取り組みやすい設計になっています。
④到達できる範囲:ゴールがあるか、上限がないか
Code.org(CodeAI)には、文字が読めない低学年向けの「Pre-reader Express」から、中学年〜高学年向けの「Express Course」、さらに13歳以上向けのWeb制作入門、そして高校生向けに通年パスウェイ化された「AI Foundations」まで、年齢や段階に応じたコースが用意されています。かつては「コースA〜F」という学年別の並びで案内されていましたが、2026年8月現在の公式サイトではこうしたExpress系の自習コースが前面に出るようになっています。段階を踏んで進めば、AIリテラシーを含むかなり高度な内容まで到達できる設計です。
Scratchには、こうした「修了ゴール」がそもそもありません。技術的な天井は本人のアイデアと根気次第で、簡単なアニメーションから、複雑な変数管理を伴う本格的なゲームまで作れてしまいます。裏を返せば、どこまで到達したかを客観的に測る指標がないということでもあります。「初めてのプログラミング言語」として何を選ぶかという視点は「小学生が最初に学ぶべきプログラミング言語は?Scratch・Python比較」でも取り上げていますので、あわせて参考にしてください。
⑤子どもの作品を人に見せられるか
Scratchは「作品を公開して見てもらう」ことが前提のプラットフォームです。コミュニティに作品を投稿し、他の子の作品を見たりリミックスしたりする文化があります。「これ、私が作ったんだよ」と誰かに見せる経験は、子どものモチベーションを大きく左右します。
Code.orgは、どちらかというと「コースを修了した」「課題をクリアした」という達成そのものが成果になる設計です。Music LabやGame Labなど一部の教材では作品を作って共有することもできますが、Scratchほどコミュニティでの発表・交流を前提にした作りにはなっていません。「人に見せたい」という気持ちが強い子には、Scratchのほうが満足感を得やすいでしょう。
⑥親の負担:手離れの良さと、伴走の必要性
コスパを気にする保護者として正直に書くと、Code.orgは親の手離れが良いツールです。次にやることが画面に示されているので、隣に座って一緒に考える必要は比較的少なく、「ちょっと待ってて、これ終わらせたら」と本人だけで進められる場面が多くあります。
Scratchは、そうはいきません。「何を作る?」「次どうする?」と本人のアイデアを引き出す相談役が必要になる場面が多く、特に低学年のうちは親が一緒にアイデア出しをする時間が必要になりがちです。もちろんそれ自体が親子の会話のきっかけにもなりますが、平日の忙しい時間帯にひとりで黙々と進めてほしい、という状況にはあまり向きません。
⑦飽きたときに起きること
Code.orgは、あるコースに飽きても、100以上あるアクティビティの中から別のものに乗り換えられます。マイクラ教材に飽きたら音楽制作系、それにも飽きたらAI系、というように「横に逃げ道がある」設計です。
Scratchで「飽きた」が起きるときは、多くの場合アイデアが尽きたときです。真っ白なステージを前に何も思いつかなくなると、そこで手が止まってしまいます。これはScratchの欠点というより、自由制作型ツール共通の性質です。この壁を越えるための具体的な作り方は「【Scratch入門】子どもと一緒にゲームを作ろう」でも紹介していますので、行き詰まったときの参考にしてみてください。
Code.orgが向いている子
次のようなタイプのお子さんには、Code.orgから始めるのがおすすめです。
- 「何をすればいいの?」と固まってしまいがちな子
- まずは「できた」という達成感を積み重ねたい子
- マインクラフトやアナと雪の女王など、好きなキャラクターや題材から入りたい子
- 親がつきっきりになれず、ある程度ひとりで進めてほしい家庭
Scratchが向いている子
一方で、次のようなお子さんにはScratchが向いています。
- 「こういうゲームを作りたい」という具体的なイメージがすでにある子
- 絵を描いたり物語を考えたりするのが好きな子
- 自分だけの世界を自由に作ってみたい子
- 作った作品を誰かに見せたい、公開したいという気持ちが強い子
併用のおすすめルート:Code.org→Scratchの順番
両方使うとしたら、どちらを先にするべきか。私が実際にすすめている順番は次の通りです。
- Code.orgでまず1時間、好きな題材のアクティビティを体験する
- 気に入ったら、Pre-reader ExpressやExpress Courseなど自習コースを数週間続ける
- 「こんなの作ってみたい」という気持ちが出てきたらScratchに移る
- Scratchでも物足りなくなってきたら、Pythonなど次の言語や、専門的に教えてくれる教室を検討する
いきなりScratchの白紙から始めると、何をすればいいか分からず「プログラミングって難しい・面白くない」という印象だけが残ってしまうことがあります。先にCode.orgで「決められたことをクリアする楽しさ」を経験させてから、Scratchで「自由に作る楽しさ」に橋渡しをするほうが、挫折しにくいというのが実感です。この後のステップについては「Scratchの次は何を学ぶ?ステップアップの選択肢」や「Python入門|Scratchの次のステップ」でも詳しく取り上げています。
よくある誤解を整理する
保護者の方からよく聞く誤解を、ここで整理しておきます。
誤解1「Scratchのほうが本格的」
Scratchのほうが自由度が高いのは事実ですが、それは「本格的かどうか」とは別の話です。Code.orgもAI Foundationsのような高校生向けの本格的なカリキュラムを持っており、段階的に高度な内容へ進める設計になっています。自由制作=上級者向け、課題型=初級者向け、という単純な優劣ではありません。
誤解2「Code.orgは子どもだまし」
アニメーションや達成演出が多いため「ゲーム感覚で本気度が低いのでは」と思われがちですが、内容自体はしっかりした情報教育のカリキュラムです。生徒の84%がすでにAIを使っている一方で、学校でAIを学んでいると答えた高校のリーダーは16%にとどまる、という公式の指摘もあり、Code.orgはこのギャップを埋めることを明確に目的にしています。子どもだましと片付けるのは正確ではありません。
2026年の新要素:AIリテラシーという強み
2026年になって大きく変わったのが、Code.orgがCodeAIへとブランドを変え、「Hour of Code」も「Hour of AI」という後継の取り組みに移行した点です。公式は「10年以上にわたるHour of Codeの実績の上に、新しいグローバルな取り組みを築く」としており、単なる名称変更ではなく、AIリテラシー教育への軸足の移動を意味しています。なお、例年はComputer Science Education Week(グレース・ホッパーの誕生日である12月9日を含む週が慣例)に合わせて実施されますが、2026年の正式な日程は2026年8月時点で公式には未発表です。年間を通じて参加できる形にはなっています。
この「AIをどう学ぶか」という教材群は、現時点ではScratchにはない領域です。逆に、作品を公開してコミュニティから反応をもらうという体験はScratchの強みであり、Code.orgにはあまりありません。どちらか一方で完結させようとせず、それぞれの強みを使い分けるのが、遠回りに見えて一番効率のよいやり方だと感じています。
Code.orgとScratchは競合するツールというより、役割の違う道具です。「教科書」で型を身につけてから「アトリエ」で自分の世界を作る——この順番さえ押さえておけば、どちらも無料で始められる分、まずは気負わずに1時間だけ触らせてみることをおすすめします。
Code.orgとScratchは、どちらも画面の中で完結します。低学年のうちは、それだけだと集中が続かないこともあります。手で触れる教材を1つ混ぜると、画面に戻ってきたときの理解が変わることが多いです。
ワンダーボックス: STEAM通信教材。月額3,700円〜、4歳〜10歳向け。
![]()
「そろそろ教室も検討したい」という段階なら、費用感の比較から始めるのが確実です。




コメント